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タイトル : ただいま、にっぽん。

6月21日、朝9時。本日だけは毎朝来ていたお部屋掃除のノックがありません。いつもなら今頃船内の至る所に「部屋掃除から逃げてきたの」と言いながら井戸端会議が開かれているのを目にしている時間です。気づけば45日の航海も、残すところあと1時間となっていました。

デッキにでると今までの寄港地とは違った雰囲気で皆様が景色を眺めています。頭上に過ぎる横浜のベイブリッジ、視界に入った大桟橋のターミナル。まもなく「ただいま」と手を振れば、「おかえり」と返ってくるほど近くになっていました。初めは終わりなんて考えもしなかった今航海、それでもいつしか残りの日数を指折り数える日々になっていました。

これまで毎日同じような時間に食事をして、同じような時間に寝て、同じようなことをしては同じように笑い合ってきました。そんな言ってしまえば淡々としたような毎日がいかに幸せだったのか、船を降りたその瞬間に気づきました。本当に本当に素晴らしい45日間だったと今改めて思います。

皆様と見てきた45個の太陽、穏やかに凪いだ海を前にして交わした言葉、陰った月の夜に重ねたグラスの音。思い出されることは毎日積み重ねていたかけがえのない日常でした。横浜の桟橋から遠ざかってゆくにっぽん丸を見送ります。そのときぐっと思いが込み上げてくるのは、船が行ってしまうからではなく、親しくなった方々とお別れをするからだったのかも知れません。

「船に帰る」という言葉は昔の船員さんがよくいった言葉だそうです。私たちは本日、確かに日本に帰ってきました。それでも今この船はもうひとつの我が家に感じられはしないでしょうか。皆様、またいつかにっぽん丸に帰ってきてください。私たち乗組員一同は、ここで皆様の再びのご乗船を心よりお待ち申し上げております。

写真・文 : 中村風詩人

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